なぜアメリカは裕福で、アフリカは貧困か『銃・病原菌・鉄』

なぜアメリカは裕福で、アフリカは貧困か『銃・病原菌・鉄』 書評・読書感想・本の話
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人種差別は世界的に忌み嫌われている思想だが、それでも無意識的に人種差別的な考え方をしている人は多い。例えば多くのアフリカ人が貧困にあえいでいる理由を考えるとき、それを「いまだに原始的な遺伝子を持った集団だからなのだろう」というような結論で片付けてしまっていないだろうか。そういった「人種による優劣という幻想」を真っ向から否定しようと試みているのが『銃・病原菌・鉄』である。

本書のなかで展開される長い歴史探求の旅は、著者がニューギニアの政治家・ヤリに投げかけられた素朴な疑問から始まる。それは以下のような疑問だった。

あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?

『銃・病原菌・鉄』上巻より

言い換えれば「いま地球上に存在する先進国と発展途上国との差を生み出した究極の要因とは何か?」ということである。この疑問に対して多くの人は意識的にせよ無意識的にせよ、遺伝子の優劣による理由を考えがちだし、そういった説明を疑問もなく受け止めている。著者はそういった傾向を断固として否定するため、古今東西の人類の歴史をあらゆる学問の視点から解き明かしていく。

『銃・病原菌・鉄』という題名の意味

まず本書のタイトルにもなっている「銃・病原菌・鉄」とはどういう意味なのだろうか。言ってしまえばその3つの要素こそがヤリの疑問に対する答えであり、また著者の論旨の骨格となっていく要素でもある。

著者はまずスペイン人とインカ帝国の衝突に注目する。よく知られているようにスペインのピサロ隊はたった168人の兵力しか持ってなかったにもかかわらずインカ帝国の数万の兵を圧倒し、そのまま征服してしまった。なぜピサロはインカ帝国を征服できたのか。なぜ逆の結果にならなかったのか。著者はこの歴史的な事件を通じて人類史を眺め、ヨーロッパ人が多くの国を征服できた直接的な要因を導き出していく。

言うまでもなく、その要因こそが「銃」「病原菌」「鉄」だったというわけである。銃は棍棒などが主な武器だったインカ兵達に相当の衝撃を与えた。病原菌はインカ帝国の王族を次々に斃し、国内の不統一を呼び起こした。そして鉄はそれから作られた武器や防具を持たないインカ兵達を物理的に圧倒した。もちろんそれ以外の要素もあるわけだが、直接的にはこれらがスペインがインカ帝国を征服できた要因であり、またヨーロッパ人が他の民族を次々に支配下にできた要因でもあるわけである。

しかしこれはあくまで直接的な要因であり、究極的な要因ではない。確かに銃と病原菌と鉄はヨーロッパ人を有利にしたが、依然として「なぜ彼等がそういった有利な要素を手にできたのか」という疑問が残っているからである。つまり題名の『銃・病原菌・鉄』というのは言ってみれば本書の入り口にあたる部分であり、それは決して核心にあたる部分ではないということを言っておきたい。

格差を産んだ根本的な原因とは何か

ではなぜヨーロッパ人は銃と病原菌と鉄を入手することができたのか。それはひと言で言ってしまえば「地理的要因」に他ならない。そしてこの結論こそが本書の到達点でもある。

では地理的要因とは何か。これらをすべて挙げると単なるあらすじになるので控えるが、例えば地球上の大陸には栽培可能な植物が多い大陸、家畜化するのが可能な動物が多い大陸などがあるわけである。そういった大陸では食料に余剰が生まれ定住化が進む。定住化が進めば政治機構が発展したり、技術が促進したりする。そしてそういった環境を持たない国家を征服できる。

つまりどういうことかと言うと、すべては偶然の結果でしかないということだ。確かに肥沃な大地に住むヨーロッパ人は他の大陸よりも一歩進んだ技術や社会を得た。そしてそれを武器に他の大陸を征服したわけだが、それはたまたまユーラシア大陸が人間にとって適した大陸だったに過ぎないわけである。つまり元からそこにあった地理的な要因が人間に影響を与えただけで、そこには人種などの生態的な要因は関係ない。支配した人種が遺伝子的に優れており、支配された人種が劣っているなどということでは絶対にないのである。ここに著者の主張は帰結し、ヤリの疑問に対する答えも得ることとなった。この結果は人種差別が横行している現代において、非常に力強い意味を持つように感じる。

おわりに

要約的になってしまったが、本書は単純に書かれている内容が面白いので興味深く読むことができる。また高校時代に世界史の授業で習った人類史の内容を整理する本としても有用な本だと思う。

個人的には「大陸が横長に形成されているほうが優れた技術や社会が伝播しやすい」という話が興味深かった。例えばユーラシア大陸は横長なわけだが、アフリカ大陸や南北アメリカ大陸は縦長である。大陸が横長の場合──つまり緯度が同じ場合──は日照時間や気候が同じ事が多いので、技術などをそのままの形で伝えやすいようだ。反対に縦長の大陸は地域ごとに気候などの条件がまったく違うので、技術などが伝わらないまま消えてしまうことも多いらしい。これも格差を生むひとつの要因ということだ。

こういった話に少しでもそそられるのであれば、本書は非常に興味深く読むことができると思います。

コメント

  1. 匿名 より:

    面白そうに語りますね

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