『スマホ脳』──SNSが我々から奪っていくもの

『スマホ脳』──SNSが我々から奪っていくもの書評・読書感想・本の話
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『スマホ脳』を読んだ。ここで書かれている現実はなかなかに凄惨だ。我々を豊かにするはずのスマホが実際には人間の集中力を奪い、それのみならずストレスの原因にもなり得るという内容だ。本書ではスマホは「ドラッグ」に例えられている。使えば注意散漫になり、手放せば強い不安に襲われる。人間の脳は過度に進化するデジタル社会に追いついておらず、だからこそ対抗策を練らなければならないというのが著者の主張だ。

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最も身近なツールなだけに考えさせられる点が多かったが、個人的に特に興味を持ったのがSNSが我々に与える影響についてである。「SNS」はパソコン上でも成立するものだが、スマホが普及した今となっては「SNS=スマホ」という考え方も大きくズレてはいないように思う。本書でSNSについての内容に多くのページが割かれているのもそのような理由だろう。

SNSは現実の社交の代わりにならない

本書ではSNSに費やす時間が多いほど、人は孤独に陥りやすいと述べられている。5,000人以上を対象としたインタビューで、幸福度が高かったのは現実に多くの人と交流する人たちで、逆にフェイスブックに時間を使う時間が多い人ほど幸福度は減っていたそうだ。

その原因はSNSを介して多くの人と繋がれすぎてしまうことにある。つまり劣等感を抱きやすいのである。SNSの無い時代、自分と比較する対象はどのくらいの人数だっただろうか。個人差はあるが、多くても100人に満たないだろう。しかしSNS上では膨大な人数が膨大な情報量をこれでもかとブン投げまくっており、それにまみれている内に「それに比べて自分は」という思考に陥りやすい。

今の子供や若者は、クラスメートがアップする写真に連続砲撃を受けるだけではない。インスタグラマーが完璧に修正してアップした画像も見せられる。そのせいで、「よい人生とはこうあるべきだ」という基準が手の届かない位置に設定されてしまい、その結果、自分は最下層にいると感じる。

「元から孤独な人間はSNSもまともに使えない」という言い方もできてしまいそうだが、事実はそうではない。「ニワトリが先なのか、卵が先なのか」ということを明らかにする調査結果も本書では触れられている。その結果は「ある期間にSNSに費やした時間が長かった人ほど、その後の数カ月間、人生に対する満足度が下がっていた」というものだった。つまりSNSは幸福度を下げるような作用があると考えていいだろう。

SNSが共感力を殺す

またSNSを使うことで他人への共感力が下がることも示唆されている。本書では「共感的配慮」と「対人関係における感受性」が80年代から低下しつづけているとの調査結果を取り上げている。

特に2種類の能力が悪化している。共感的配慮という、辛い状況の人に共感できる能力。それに対人関係における感受性だ。これは別の人間の価値観にのっとり、その人の視点で世の中を見る能力だ。

このことがSNSと関連があるというのは憶測の域は出ないかもしれない。ただ個人的にはこの結果は正しいと思うし、その原因の多くはSNSにあると確信している。というのはここ最近になり、SNS上で見ず知らずの他人を口汚く罵る人を見る機会が圧倒的に多くなったからだ。それが原因で訴訟にまで発展することも最近では珍しくなくなってきた。

自分はインターネット上の交流では「顔も名前も知らない人だから、より相手を思いやるべき」と考えてきた。だからこそ「顔も名前も知らない人だから、何を言っても関係ない」と考えているような人がいることには少なからず衝撃を受けたし、嘆かわしく思う。

共感力が無くなる原因としてはやはりSNSが顔の見えないコミュニケーションに終始してしまいがちなことにある。

心の理論の能力は、他人の表情や行動、仕草を繰り返し観察することで得られる。

前述の「SNSを使えば使うほど孤独に陥りやすい」という作用も拍車をかけている側面はありそうだ。孤独感に苛まれ、共感力も失った人間が他人に敵意を向けるのは想像に容易い。本書に「どんな人がスマホ依存症になるのか」というコラムがあるが、そこに挙げられている人の特徴は「自尊心は低いが競争心が強く、自分を強いストレスにさらしている人たち」だった。

発信する側はSNSを使っても不幸になりにくい

SNSを利用するすべての人に上記の様な悪影響があるわけではないのは朗報だろう。というのは、SNSの使い方によって精神状態の変化に差異があったからだ。それは「積極的なユーザー」と「消極的なユーザー」との違いである。

フェイスブックを対象にした調査では、「見る専」などの消極的なユーザーは、積極的に画像をアップしたり利用者間でコミュニケーションを取るユーザーと比較して、精神状態が悪くなりやすいという。そしてフェイスブックを利用するほとんどの人はその「消極的なユーザー」に該当するそうだ。

その事実を知ったとしても、SNS上での立ち位置を急に変えるのは難しいように思う。特に発信することが無いから見る専になっているわけで、それは意識でどうこうできる問題には思えない。そうすると今後はインフルエンサーがますます発信力を強め、自分のような凡人はそれに翻弄されるだけの使い方しかできないのだろうか。あまり考えたくはない。

SNS上で痛い人間にならないために

SNSと上手に付き合うための方策が本書ではいくつか述べられている。「デジタル・デトックス」はそのひとつだ。本書ではSNSを1日30分に制限したグループと、そうでないグループを比較した調査が紹介されている。結果は以下の通りだった。

3週間後、利用を30分に減らしたグループは精神状態が改善していた。調査開始時にうつ症状のあった人たちは、以前ほど気分の落ち込みや孤独を感じなくなっていた。つまり、SNSが私たちをうつにする可能性があるのだ。

SNSを完全に断つというのは現実的ではないと思う。人によっては効果を発揮するかもしれないが、多くの場合、それはかえって人生をつまらないものにしてしまいそうだ。制限を設けるだけでも一定の効果が得られるというのは我々にとって幸いなことではないだろうか。

また本書でも述べられているが、個人的には「社会生活の代わり」としてSNSを使わないことも重要に思う。それは言い換えればSNS上の自分と適度な距離を置くことである。

例えば自分はTwitterを使ってはいるが、先ほどの話で言えば「消極的ユーザー」側の人間だ。発信もするにはするが、情報収集として利用する機会のほうが圧倒的に多い。ではそんな自分は前述のような孤独感や劣等感に苛まれたりするのかといえば、そんな風に感じたことは一切無い。それは自分が色々な立場を持つ人間だからだと思うのである。現実世界はもちろん、こうしてブログを書いていたりもすれば、生配信を行っていたりもする。それ以外の時間も趣味の麻雀や筋トレをしていることがほとんどで、SNSに意識を向けることがそもそも少ない。

反対にSNS上に作り上げた自分が社会の中心になってしまえば、その悪影響のすべてを一身に受け止めることになってしまう。そうするとインターネット上にモンスターが誕生してしまうわけである。

別に自分の付き合い方が正しいというわけではないが、SNSに目を向けることすら忘れるような時間を作ることは、スマホ依存対策を越え、人生を豊かにすることに繋がっていくはずだ。

おわりに

この記事では『スマホ脳』の中のSNSに言及されている部分を中心に取り扱った。本書で述べられているのは「スマホにはメリットとデメリットがあるので賢く使いましょう」というだけのことだ。しかし問題はそのデメリットが普通に生活していると認識しづらい部分にあると思う。

本書はスマホを使う上でのデメリットを我々に認知させ、その対抗策についても具体的な方法が紹介されている。興味を持っていただけたなら是非手にとって読んでほしい。

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