『アナロジー思考』──類推から発想を生む

『アナロジー思考』──類推から発想を生む 書評・読書感想・本の話
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「アナロジー」に以前から興味を持っており、こちらの本がセール対象になっていたので買ってみた。

アナロジー思考を活用するメリット

「アナロジー」とは日本語に訳せば「類推」という言葉に相当する。辞書を引いてみると以下のように定義されている。

一方が他方と似る(幾つかの)点に基づいて、(既知の一方から)他方の有様を全体的に推し測ること。類比

岩波 国語辞典 第7版 新版

こう言われてもいまいちわかりにくいかもしれないが、アナロジーは誰しもが日常的に行っているもので特に珍しいものではない。例えば我々は全く見知らぬ土地に行ったとしてもそこで路頭に迷ったりすることはない。それはこれまでの経験を元にしてどこに何があるかを推測し、行動に反映させることが可能だからだ。むしろ人生においてアナロジー的な考え方を用いない場面のほうが少ないだろう。

至って当たり前の考え方がアナロジーなわけだが、ではその有用性はどのような点にあるのだろうか。本書では以下の3つが挙げられている。

「自分の理解」を促進する

アナロジー思考に長けた人は物事の構造や法則性を素早く見抜き、未知の事象でも効率よく理解することができる。

「他人への説明」をわかりやすくする

「たとえ話」はアナロジーの最たるものかもしれない。未知の事象を説明する際に、身近なものに例えてわかりやすく説明する。アナロジーの視点が無ければできないことだ。

「新しい発想」を生み出す

よく言われるのが、新しいアイデアは既存の発想をかけ合わせて生み出されているということだ。ライト兄弟が鳥から着想を得て飛行機を生み出したのは有名な話だが、これも「鳥」という既存の概念を「飛行機」という当時としては未知の概念へと適用した例と言えるだろう。

これ以外ではアナロジーの作用が双方向に及ぶことも見逃せない。先ほどの例との関連で言えば、最近になって「鳥がどのように飛ぶのか」という正確な原理が明らかになったらしい。ざっくり言えば、これまでは飛行機と同じ原理で飛ぶものと考えられていたが、そうではなかったというものだ。

鳥は抗力を使って飛び立つ——これまでの常識に一石を投じる観察結果|fabcross
動物や飛行機がどのように飛ぶかについて、鳥は抗力を使って離陸中に体重を支え、揚力を使って着陸時のブレーキとしていることが明らかになった。

これは見方を変えれば飛行機の存在が鳥の研究に対して新たな知見を与えたとも言える。鳥によって生み出された飛行機が、今度は逆輸入的に鳥の研究を促進する働きをすることとなった。このように未知の事象への理解を深めるだけではなく、既存の事象に新たな視点を与える双方向性を持つのもアナロジーのメリットと言えるだろう。

アナロジー思考に潜む罠

このように意識的に用いることで多くのメリットを得られるアナロジー思考だが、気をつけるべき点も多く存在する。

アナロジー思考の材料は無限だ。幅広い知識があればより有効にアナロジーを用いることができるし、またその意識が色々な分野に目を向けようと思うきっかけになるだろう。

一方でその対象を誤る可能性に留意しなければならない。本書ではそれが「ゲームやドラマを現実と混同してしまうのはなぜか」の章で述べられている。当然ながらフィクションを用いて現実の世界を推し量ろうとしても、ほとんどの場合にそれは単なる飛躍的な解釈へと陥る。感受性を養うという点では架空の世界にのめり込むのは素晴らしいことだと自分は思っているが、ただそこで展開される思想や事象を現実に当てはめるのは基本的には無理がある。意外とこの誤謬に陥っている人は多いし、自分としても心当たりがあるので常に注意していきたいところだ。

上記と関連することだが、アナロジーは全く無関係に見える事象同士でも結びつけることが可能な性質があるため、それが飛躍すれば「詭弁」となる危険性を秘めている。「単にその双方に関係性を見出したい」というような感情が混ざってしまえば、それは途端に意味をなさなくなるどころか、むしろ悪影響しか及ぼさない危うさがアナロジー思考には存在する。

アナロジー思考を上手に使うには物事の構造を見極める冷静な視点と、それに加えてその推測が正しいかどうかを精査するプロセスが必要となるだろう。そういう意味では『仮説思考』との相性が良いように感じた。アナロジーと似ている点が多いし、それでいてその弱点を補えるように思う。

仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法

おわりに

この他にも本書ではアナロジー思考に長けた人の特徴や、アナロジー思考力を高めるための方法などにも触れられている。誰しもが無意識的に行っている考え方だからこそ普遍性があり、それを認識し意識的に行っていくためのきっかけとして意義のある本だと言える。

その一方で当たり前に行っていることなので読んでいて感動が薄いのも否めない。事例が大半を占めており、またそれについてもピンとくるものが少なく、はっきり言えば読み物としての面白みはほとんどなかった。

腐すようなことを言ってしまったが、著者が執筆している本はテーマや装丁において魅力的なものが多い。他の本も手にとってみようと思う。

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