『檸檬』は梶井基次郎の小説である。有名な小説だし、教科書にも載るぐらいの作品なので知っている人は多いかもしれない。ただ自分は存在すら知らず、それもなんとなく癪に障るので読んでみた。
正直なところ読み終わった直後は良さを理解できなかった。作者はこんな小説を書いて何をしたいのかと思ったほどである。Wikipediaの項を見ると、小林秀雄や三島由紀夫といった類まれな鑑識眼の持ち主がこの作品を高く評価している。そういう事実があると途端に自分までこの作品を評価しなくてはならないような気にさせられるが、そうして安易に迎合するのも気に食わない。幸い短編なので読み返しは容易である。ページを行ったりきたりしながら自分なりに考えてみた。
結論としてはこの作品の魅力はやはりレモンにありそうである。鬱々とした主人公が救いを見出したのはレモンだった。そのレモンが色彩や重さといった点から猫写されているの見ると、まるで真っ黒のキャンパスに描かれたレモンを見ているかのような強烈なコントラストを感じる。だから何だ、と言われればそれまでだが、読みながらも眼前にレモンを見ているような、手にその重みを感じているような、そういった鮮明さを感じる筆致に評価されている理由があるのだろう。
また「檸檬爆弾」と呼ばれる終わりにかけてのシーンも異常さがありながら滑稽味を感じさせて面白い。舞台となった京都の丸善で、この小説を真似てレモンを置き去りにする人が多かったというエピソードも、生活のなかに文学の比重が高かった当時の人々の様子がうかがい知れて情緒がある。
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