文庫本を買うと紙の栞が挟まっているのはご存知だろうが、自分はそれを集めることを密かな趣味としている。中古本を買うことが多いのだが、なかには栞が挟まっていないものもある。元々はそういうときのための備えであり、あくまでも実用的な意味合いだったのだが、いつしか束が厚くなっていくことが楽しくなってしまい現在に至る。
もちろん収集することだけに快楽を見出しているわけでもない。こういった紙の栞は意外と工夫を凝らしているものが多い。例えば広辞苑のなかの一項目が書かれていたり、偉人の格言めいたことが書かれていたり、本の紹介が書かれていたりと、眺めてみるだけでも案外楽しめる。特に素晴らしいと思ったのは光文社の『カラマーゾフの兄弟』の栞である。その本の栞では登場人物が紹介されているのである。日本人からすると外国人の名前というのは似たように見えてしまうので、読み進んでも関係性を把握するのがなかなか難しい。かといってページを行きつ戻りつするのも億劫だ。そういった面倒を一挙に解決する良い方法に思う。
また意外な出会いも演出してくれる。あるとき中古で買った本に挟まっていた小汚い栞にて『影をなくした男』という小説が紹介されていた。「紹介されて」と言ったが、そこにはタイトルと作者名、そして奇妙な表紙絵があるだけで、紹介と呼べるものなのかも怪しい。変な本があるもんだ、ぐらいに思っていたのだが、別の日に古本屋へ行くと棚にその本が並んでいることに気がついた。その栞を見ていたからこそ、その本の存在に気がつくことができたわけである。縁を感じて思わず購入してしまった。
これが自分の人生を変えるほどに面白い本だったりしたら名エピソードにでもなるが、別段そういうこともなく、それなりに読める程度の本だった。ただまるで童話のような不思議な本なので記憶には残りつづけるだろう。
そういったこともあるので、変な趣味には違いないが悪い趣味ではないと思っている。
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