- 2012年製作/111分/フランス
- ジャンル:スポーツ・コメディ · 恋愛
- 原題:『Populaire』
- 劇場公開日:2013年8月17日
1950年代のフランスを舞台に、田舎出身の女性が世界最速のタイピストを目指すという物語。それだけを聞くとスポ根映画の印象が強いが、実際はラブコメ要素も多いため肩肘張らずに観賞することが可能だ。
PopulaireとTriumph
原題の『Populaire』はフランス語で「大衆」というような意味だが、これは作中にも登場するタイプライターの機種名である。またもうひとつのタイプライターとして「Triumph」が登場するが、これは「勝利」を意味している。そしてこの映画は登場人物が「大衆」と「勝利」の間で揺れ動く物語だと言っていいだろう。「社会」と「個人」と言い換えてもいいかもしれない。
ヒロインであるローズは全仏大会の優勝によりスポンサーが付くほどの有名人となるが、それをきっかけに使い慣れたタイプライターではなく、彼女のために開発された最新のタイプライター「Populaire」の使用を強制される。文字通り大衆のなかで神格化されていくローズだが、その直前にコーチであり意中の相手でもあったルイが彼女のもとを去っており、精神的には満たされていない。そんな彼女が最終的に使用したのが「Triumph」であり、その選択が彼女を大衆から脱却させ、個人的な勝利へと向かわせていく。
またこの「大衆」と「勝利」というテーマは他の登場人物にも共通している。もうひとりの主人公であるルイはいつしかローズに惹かれていたが、彼女の知名度が上がったのをきっかけに自ら身を引いている。それは肝心なときに公共の利益を優先する彼の悪癖であり、過去にはそれで恋人との結婚も逃している始末だ。はっきり言えば作中におけるルイの態度は面倒くさい男そのものなのだが、そんな彼が葛藤を乗り越えて愛に自らを委ねていく過程は見どころでもある。社会的な成功に偏っていたルイが自らの本心と向き合っていく物語であり、形は違えどローズと同じ展開を辿っていると言えるだろう。
タイプライターと女性
個人的に興味深かったのが、この映画におけるタイプライターと女性の描かれ方である。作中ではタイプライターの大会に観客が詰めかけるほど大きな盛り上がりを見せており、さらに優勝者に対しては黄色い歓声が飛ぶなど、現代ではおよそ想像できない光景ばかりだ。演出の部分も多いのかと思いきや、この映画は監督が見たドキュメンタリー番組に着想を得たそうで、舞台設定としては史実が元になっているらしい。実際に当時の映像を見てみると、映画とほとんど変わらない光景が広がっていて驚かされる。
歴史的にもタイピストは秘書の延長の仕事とみなされるようになり、それが女性の社会進出に大きく貢献したという背景があるようだ。そもそもルイがなぜローズに大会の優勝を命じたのか最初はわからなかったのだが、タイピング能力が有能な秘書を持つことは雇用主のステータスであり、また会社の広告塔としての役割を担うことにもなっていたのだろう。
デボラ・フランソワ
ローズ・パンフィル役を演じたのはデボラ・フランソワという女優だが、彼女の美貌もまたこの映画の魅力である。彼女の表情や佇まいはオードリー・ヘプバーンをどことなく想像させるが、それもそのはずで監督はデボラに1950年代の女性を理解させるため、オードリーを参考にするよう指示をしていたそうだ。素人の自分にすらオードリーの影を感じさせたのだから、それだけ彼女の再現力・演技力が素晴らしいということでもあるだろう。

この映画は当時を忠実に再現するため、衣装や小道具にも徹底的にこだわっているのが特徴でもある。1950年代の映画のパロディ・オマージュといったものも多いらしく、細部への情熱も作品の魅力に一役買っていると言えそうだ。



コメント