ウイスキーをある程度知った人からは「安ウイスキー」なんて言われる『ブラックニッカ クリア』だが、多くの人にとって初めて触れるウイスキーであることは間違いないだろう。トレードマークのヒゲのおじさんはお酒を飲まない人にとってもなんとなく馴染みのある存在であり、ここからウイスキーにハマっていった人も多いのかもしれない。
この「ヒゲのおじさん」は誰なんや
やはり気になるのは、この「ヒゲのおじさん」は誰なのかということだ。公式でも問い合わせが多いようで、その回答がなされていた。

まずラベルに住んでいるこのおじさんは「KING of BLENDERS(キング・オブ・ブレンダーズ)」という名称らしい。サントリーには「ウイスキーづくりの鍵はブレンド技術にある」という理念があり、その象徴として作られたキャラクターであるとのこと。
ブラックニッカのラベルに書かれている「ヒゲのおじさん」は、「KING of BLENDERS(キング・オブ・ブレンダーズ)」です。竹鶴政孝の哲学のひとつである「ブレンドの大切さ」を象徴するためにつくられたキャラクターで、1959年に最初にボトルに登場しました。
https://www.asahibeer.co.jp/customer/post-429.html
また一応モデルも存在するようだが諸説あり、
- ウォルター・ローリー(1554年~1618年10月29日)
- W・P・ローリー(19世紀)
のふたりが挙げられている。定説としてはウイスキーのブレンドの重要性を説いたという「W・P・ローリー」がモデルとされているようだ。
その一方でW・P・ローリーの自画像などは存在せず、確認できるのは「ウォルター・ローリー」のものだけである。

まあ似てるっちゃ似てる。ただ似てないと思ったら、全然似てないような気もする。
案外、キャラクターデザインのみ「ウォルター・ローリー」を参考にしていて、その由来については「W・P・ローリー」が元になっている、というような可能性もあるのかもしれない。
試飲感想
香り・味わい・余韻の三要素で評価。
- 香り
- 蜂蜜やバニラを思わせる。とにかく甘い。
- 味わい
- 他のウイスキーに比べてかなり飲みやすい。
ただ次に思うのは「ウイスキー以外の何かが入っている」感。
安い焼酎っぽい、わざとらしい甘みとアルコールっぽさがある。
- 余韻
- 蜂蜜やメープルに砂糖をぶっかけた感じの甘みが残る。
『ブラックニッカ クリア』は以前からよく飲んでいたウイスキーである。ただここ最近は様々な種類や価格のウイスキーに触れてきた。ここらで他のウイスキーとの味の違いを確認してみたかったというのがこの一本を選んだ理由だ。
結果としては、やはりまず感じたのはウイスキー以外のアルコールの味だ。詳細は後述するものの、結論としては『ブラックニッカ クリア』はウイスキー以外のアルコール(グレーンスピリッツ)が混ぜられているお酒である。以前は特に疑問もなく飲んでいたものの、やはり海外のウイスキーと比べるとその違いを感じ取れた。
グレーンスピリッツ問題
自分は知らなかったものの、実は『ブラックニッカ クリア』に「グレーンスピリッツ」が混ぜられているという事実は、界隈で大きな議論を呼び起こしていたらしい。
個人的に興味深かったので、以下にその一連の流れをまとめてみたい。
海外におけるウイスキーの定義
この議論をするうえで欠かせないのが「そもそもウイスキーとは何なのか」という定義だ。
欧州連合(EU)におけるウイスキーの定義は多岐にわたるが、そのなかには
(c) 希釈化の有無を問わず、別紙I (5) に定義されるアルコールの添加は一切なされないものとする。
というものがある。「別紙I (5) に定義されるアルコール」には、スピリッツなどのウイスキー以外のアルコールが含まれている。
ウイスキーの定義は国によって異なり、その基準も多岐にわたるが、ここでは
というざっくりとした理解で問題ない。
日本のウイスキーの基準は緩い
それでは日本におけるウイスキーの定義はどのようなものなのだろうか。日本では酒税法によってウイスキーの定義が決められているが、その基準は非常に緩いものとなっている。
具体的には日本では全体の一割でもウイスキーが含まれていれば、それはウイスキーと名乗ることが許される。逆に言えば、それ以外が他のアルコールでも構わないということだ、
日本の酒税法では10%以上穀類由来のウイスキー原酒を使用されていればウイスキーの要件を満たせることになっており、90%まで醸造アルコール、ウォッカ、全く熟成されていないベビーモルト、ベビーグレーン等の各種スピリッツ(蒸溜酒)類の使用が可能である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ジャパニーズ・ウイスキー
この緩い基準は「ジャパニーズウイスキー」の信頼性を損なう可能性を持っており、それを危惧した日本洋酒酒造組合が2021年に「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」を制定。これは前述のEUの定義とほぼ同様のものであり、これによって酒税法の緩い基準のウイスキーは、ジャパニーズウイスキーと名乗ることが許されなくなった。
ただこれはあくまでもジャパニーズウイスキーを名乗るための定義であり、酒税法上のウイスキーの製造・販売を制限する効力は持たない。
それにより今の日本市場には
- (酒税法上の基準を満たしただけの)日本産ウイスキー
- (厳格な基準を満たした)ジャパニーズウイスキー
という二種類の国産ウイスキーが混在するという、少しややこしいことになってしまっているようだ。
ラベルに現れた「グレーンスピリッツ」の文字
ただ上記のような展開はあったものの、日本で流通するウイスキーに大きな影響はなかった。というのも、我々消費者にとっては販売されているウイスキーに何が、どのような割合で混ぜられているかなど、そもそも知る手段がなかったからである。
しかしそんな状況が大きく変化したのが、2022年4月の食品表示基準改正である。これは、
という、表示ルールを変更する内容だった。
そしてこれを受けて国内メーカーは加工食品の原材料表記を順次変更。そしてここからが問題なのだが、我々が手に取るブラックニッカクリアのラベルに、突如として「グレーンスピリッツ」の文字が記載されるようになったのである。
ブラックニッカクリアのラベルには
- モルトウイスキー
- グレーンウイスキー
- グレーンスピリッツ
の3種類の原材料が記載されている。
そして新たに記載されたということは自ずとグレーンスピリッツが最も多い原材料ということとなり、その割合は少なくとも34%以上を占めていることになる。
また前述のガバガバ基準では最大90%まではスピリッツの混合が許されており、その結果として
という事実が判明することとなった。
実際に飲んだ上での個人的な感覚では、スピリッツの割合は50%以上は確実であるように思う。限りなく90%に近い割合だとしても、それほど驚かないという感想だ。
この事実をどのように感じるだろうか。この一連の件を受けて「騙された」と感じる人も多いようだ。ただ水面下でこのようなことが起きていたことすら知らなかった自分としては、ウイスキーの歴史における事例として興味深く感じた。
もちろん複雑な心境がないわけではないが、日本のウイスキーは国際的に注目されるようになってからまだ日が浅い。少なくとも現在進行系で前進していることは間違いないとポジティブに捉えることにしたい。
『ブラックニッカ クリア』はウイスキーなのか
飲んだ評価としては1点となったが、これは味そのものというよりも「そもそもこれはウイスキーなのか?」という疑問によるところが大きい。ウイスキーらしい匂いや味はする。さらに低価格で飲みやすいということで、その点については評価したい。ブラックニッカクリアからウイスキーの世界に入門した人もきっと多いはずで、その貢献度合いも大きいことだろう。
ただウイスキーを楽しみたいと純粋に考えている自分にとって、別のアルコールが混ぜられているウイスキーの存在はノイズに感じてしまう。今後もブラックニッカクリアやトリスウイスキーなどのスピリッツ入りのお酒を飲むことはあるだろう。ただそのときに「ウイスキーを飲んでいる」という感覚には浸れないかもしれない。




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